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2015.11.01 緊急レポート、杭工事データ改ざんとは!
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旭化成建材の杭工事データ改ざんが世間を騒がす大きな話題となった。
杭工事で使う杭の事を業界では一般的にパイルと呼んでいる。

■日本国土の殆どが軟弱地盤
基礎工事前に地盤を補強する杭工事は、日本国土の地盤では粗80パーセントの割合でその対策が必要と言われる。それ位に日本の地盤は良くない。

■杭の占める割合
杭工事の建築工事に占める割合は大きく、鉄筋コンクリート造の場合、コンクリート工事や鉄筋工事、型枠工事と同等程度の費用負担となる場合が一般的で、工事費全体の1割前後を占める位のとても大きな工事費目なのである。

その為、工事費の削減を検討する際、杭打ちの方法や材料選定はとても大きな要素で、パイル業界は何時も工事を請負う建設会社からコスト削減の第一の標的となる。

■杭工法の変遷
その工法では、現在世間で騒がれているように、セメントミルク工法と言われるセメントを支持層に注入し差し込んだ杭に絡ませ地盤から支持を取る工法がある。

昔は、打撃工法と言って杭は地面に叩き込み、その反力を目視で確認しながら打設するのが常識だったが、周辺地域から打撃にによる騒音、振動、そして飛び散る油などによる様々な補償が求められる時代となった。

振動、騒音による家屋補償は、工事期間中のホテル代や、タクシー代からクリーニング代に至るまで要求されるようになり、杭打工事工法はそのクレーム対策によって時代と共に目まぐるしく変化してきた。

支持層の強さを目視で確認できた打撃工法は、デーゼルハンマーによる直打工法から、騒音の比較的出ない油圧ハンマーによる打撃工法へ変わり、現在最も多く採用されるセメントミルクによる注入工法へと至る。

ボーリング調査にて予め支持地盤の深さを確認した上で支持層の手前までオーガーで杭径とほぼ同じ大きさの穴を掘り、杭を納めて、セメントを注入していく工法がセメントミルク工法。

いわゆる無振動無騒音工法で、杭工事が行われているか周辺では判らない工法で、現在ではこれが標準工法となった。

■設備投資と時代の変化
パイル業界が大変なのは、工法が変わる度に杭打ちのための大掛かりな装置、いわゆるプラントへの膨大な設備投資が必要になる事にある。杭打機自体もセット当り億に近い設備投資なのに、次々に新しい工法が現れ、昔のデーゼルハンマーや油圧ハンマーの打設機は国内では使えなくなってしまった。それらの打撃工法の機械は、現在その殆どが東南アジア諸国で活躍しているようだ。

バブル時代、パイル業界はとても華やかで、派手な接待付きの営業展開が普通にされる、とても美味しい業界であった。それも今では遠い昔の話。

かつて三桁は裕にあったパイルメーカー、今では最盛期の十分の一程に淘汰されてしまっている。現在では、建設会社が工事を受注しても、杭打ち機械が見つからないとか、パイルの材料がどこにもなく制作期間90日待ちの状況とかザラで、杭工事をやって頂ける所をこちらから探し求めるという時代なのだ。

だから今回の事態が建築業界に与える衝撃は大きく、遂には担い手が居なくなってしまうのではないかと危惧する。

■問題の根源
さて、担当者によるデータ改ざんと言う問題。私達が普段介在している建築工事に於いてはとても考え難い事態なのである。

と言うのも彼等、杭の施工管理者にとって工事金額が上がろうが、所詮関係のない立場の人達。彼等は実際に工事出来高によって請求を上げてくるので、当然パイル事態が支持層まで達していない事が判ると支持層まで達するのに、例えば1.5mパイル長さが増えますよと普通は言ってくる。

施工管理者は支持層まで達してない事が解ってそこで止めるわけいかないと言う立場で工事費は数千万増加になりましたと普通であれば平気で、しかも笑顔で言ってくるのだ。私たちの周りの杭の施工管理者ってお金の事など気にしない、ぽっちゃり型の愛敬のある人達が多い。但し大手メーカーの人はよく知らない!

このパイルの長さを決定するのは、杭打ち工事の最初に試験杭と言って規模に応じ、工事場所全体からバランスよく抽出した数カ所を試験的に支持層まで掘って最終パイル長を決めるのが通例。これは建築工事特記仕様書で、その箇所数と長さを記載するように決まっている。

施工管理者さんにしてみれば、支持層に達する迄打ち込むのが使命なので、工事費が増えようが普通は彼等には関係の無い事。

■巨大な組織による一気通貫の利益追求システム
ところがこれが、デベロッパー発注工事となれば、全く違うのである。デベロッパーと施工業者は同列にいて、工事コストが上がることは絶対に許されない事態なのだ。

以前に日本中を騒がせた構造偽装問題。これはデベロッパーと構造設計事務所が結託して、工事費を抑える為にやった前代未聞の詐欺事件である。デベロッパーと設計事務所の間にはエンドユーザーである施主は不在。これはとても特殊なケースである。

普通に設計事務所が施主側に立って管理を行っていれば、杭の施工担当者が偽装をする必要は無く、杭が支持層に達していなよ!支持層に達するのにうん千万円追加になりましたって工事監督者に請求すれば済む話。そうすると工事監督者は、ボーリングデータが違っていたからカクカクシカジカ、クライアントに報告する事になる。

今回の問題は、それをできなくしている仕組みが何処かに隠れているのであろう。建築業界は専門職と有資格者が複数集まって一つのプロジェクトを創り上げていく作業である。

■専門性を有する組織の在り方!
有資格者は失敗を犯すと、資格者個人の責任が問われる事になる。組織自体に、個人を護ろうとする仕組みが無ければ、有資格者は自分を守るために理論武装する。しかしながら失敗は失敗なので終いには嘘で固めてしまうという最悪の事態になってしまう。

専門職を扱う組織には、人が犯す失敗を大きな学びの場として、一刻も早く公表できる体制が絶対に必要であり、同時に失敗を組織全体でフォローアップ出来る仕組の構築が必須である。そうでない組織は必ず滅びる!

これは、建築デザインでのISOを取得した際のマニュアル作成時に学ばせて貰った。専門職に携わる人は、自分を守る為、無意識に失敗を隠そうとする!そんな事例が大きな場面で頻繁に見られる世の中となって来た。

失敗を隠さず早い段階で公に出来る仕組み作りは、私がISO取得に取組んだ動機でもあった。
今ではISO事態はコストが掛かる為に放棄したが、その仕組みとマニュアルは今でも組織に活かされている。

■杭が支持層に到達しない原因!
さて、困るのは思わぬ所で工事費が追加になってしまった場合、工事監理者もクライアントも途方にくれてしまう。そこからとてもとてもシビアな工事監理が必要になるのである。

追加になった杭の長さの分、勿論、施工費と材料代は増えるかも知れない。そもそも支持層の深さ、パイルの長さを決定した根拠は何処にあったのだろう。

往々にしてその原因は、工事場所である現地のボーリングデータでは無くて、隣接した別の場所のデータだったり、近隣データを参考にした場合が殆どなのである。

その場合、構造設計者も工事監理者もクライアントに対し、杭に長さの変更が現場であり得る事を情報として伝えておく責任がある。これは絶対必要な事で、文書で残しておくべき重要事項である。

何れにせよ、今回の施工管理者によるデータ改ざんは、専門技術者による過失によるものとは考え難い。

今回のようにデータ改ざんが常習的に行われていたという事であれば、工事の受注から施工に至るまでの一連の流れが追加工事や変更を認めない大きな圧力の元に施工管理者が動かされていたのでは無いだろうか。こうなると施工管理者の問題では無く組織全体の問題となる。

政治力など実際の工事施工とは関係のないところで、何でもいいから早く終われ、適当に裁かせておけ、そんな風潮が組織自体にあったのなら、ベテラン社員だからこそ、そのように上手く処理をしていたのかも知れない!

■活力を失わせる法的縛り
しかしながらこう言った事件によって法的に縛りが掛かる。今回のように限られた巨大組織によるデベロッパーからゼネコンそして建築事務所に至る一気通貫の儲け主義建築工事の為に、一番苦しめられるのは、巨大組織とは縁も所縁も無く良心に沿い、正義の心で建築に携わっている施工管理者個人や小規模の設計事務所の所員だったりする。

大手デベロッパーも旭化成建材のような大手建材メーカーも、一般の建築に携わる者からすれば、日本を代表するような組織のとても恵まれ社会環境に居る特別な人達の事。

彼等のおかげで、組織に属しない正義感のある多くの専門技術者が苦しむことになる。
建築士に対して義務付けされた、丸一日を拘束されコストのかかる講習会の中身と言えば、夢のある未来創造の話は殆どなく資格者に対する懲戒処分厳格化の法改定の事ばかりが目立ってきた。
ものづくり日本と言われるこの国で、建築技術に夢を託す若者は益々少なくなって行く!
そんな疲弊した社会へ向わせる、この事件とその報道の在り方を憂う。


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